Vol.84 『Port St Johns』
 2003年3月1日

何の情報もなく、南アフリカに辿り着いた我々。
それでもしばらく経つと、「おやっ?」という体験に次から次へと出会う。

例えば、ここでは従業員にチップをあげると、皆必ず、差し出す手の手首に
もう片方の手を添えて受け取る。これは奴隷制度の名残らしい。

17世紀にオランダ人がこの地にやって来て、奴隷貿易を始めた。
1745年には1000人未満だった白人人口は、1814年にイギリス植民地となって
からも増え続け、1869年以降にダイヤモンドや金が発掘されるようになると、
世界中から多くの民族が集まってくるようになる。

小説『ゲームの達人』さながらの物語が繰り広げられ、「De Beers」などに
代表される様々な巨大企業が生まれた。
だが、その一方で、一部の白人による大多数の黒人支配は、
近年のアパルトヘイト問題へと繋がる暗い歴史を作ってしまう。

・・・・と、ここまでは歴史のお話。
現実的には、普通に旅をしている限り、アフリカ人がどのような生活を
送っているかを知る機会はほとんどないような気がする。

泊まる宿や店の経営者も、ほとんどアフリカ生まれの白人なので尚更だ。
最初彼らが話す言葉が何語かわからなかった。ヨーロッパ言語のような音。
尋ねると、それは「Afrikaans(アフリカーンス)」だという答えが返ってきた。

「Afrikaans」は、もともと白人と黒人奴隷が意思の疎通を図るうちに
出来上がっていった言語だという。南アフリカには「Afrikaans」を含む、
「Zulu」「Xhosa」「Pedi」などその他11種類の公用語がある。
そのうち「English」は5番目に多く使われている公用語だ。

言葉1つとってみても、日本という単一民族で、『差別』とも無縁の、
公用語が「標準語」しかない国で生まれ育った自分には、この国は
想像も及ばない多様性を秘めているように思える。
ここでは、すべてのことがあまりにも違うのだ。

道
どこまでも続く道。
道
パノラマ空間が広がる。

まずは動いてみなければ始まらない。
次なる目的地、Eastern Capeの北部Transkei(トランスカイ)に向かう。
その中でも我々が向かうのは、「Wild Coast」と呼ばれる地域だ。
そこには「Port St Johns(ポート・セント・ジョンズ)」という街があり、ヒッピーの
アイドリング・スポットになっているという話だった。

J-Bayを出発して車で走ること約8時間。
途中巨大な丘を越え、小さな村や街を越え、ひたすら走り続けた。
この国では富が白人に集中していた為なのか、妙に近代的な所がある。
例えば、道路はよく舗装されているし、ガソリン・スタンドも充実している。

周りの景色はどこかオーストラリアに似てるが、「物」や「記号」が少ないせいか(?)
それよりも遥かに広がりを感じる。過去見たことのない巨大なパノラマ空間だ。
後半雲行きが怪しくなるも、なんとか無事夕方までに到着。

町
Port St Johns の街中。
一瞬、ゴミの山か?と思ったが、
よく見るとフリー・マーケットだった(笑)。
町
お店。

「Port St Johns」は、Umzimvubu川の河口にある小さな田舎街。
街と言っても信号も無く、スーパーが2件とちょっとした店があるだけ。
それでもその小さな街の通りには人が溢れている。
見かけるのはほとんど黒人系アフリカ人。アジア人は我々だけみたいだ。
目立ち過ぎて、なんとなく落ち着かない。

当然ホテルのようなものは無く、一部のゲストハウスかB&B、
バック・パッカーズがあるだけ。ぐっと田舎に来た感じがする。

髪染め
各国の生活雑貨を見るのは楽しい。
これは「髪染め」。
羊の頭
羊の頭(毛付き)。

さて、新しい国や街のことを知るのに手っ取り早い方法はなんだ?
と聞かれたら、私なら“スーパー・マーケット”と答える。
その国の生活レベルや食文化、物価を知るのにこれ以上便利な場所はない。
ついでにそこに来る買い物客も観察できるし、ローカルの生活をより肌で
感じることができる。

街のスーパーは、品質はともかく、意外にも品揃えが充実していた。
食パンのみだがパンも焼きたてが食べれるし、野菜も売ってる。
物価は安い。といってもそれは我々にとっての話で現地の人には高いと思う。

南アフリカの貨幣はRand(ランド)。サイとかライオンの動物の絵が描いてある。
ちょっと前までUS1$ = R8だったが、しょっちゅうレートが変わるので、
「今度は8で割ればいいんだよねー。」などと会話してるけど、
本当のところはよくわからない。

しかし、こうしょっちゅう移動が続くと、お金の計算も混乱するものだ。
自分でもあきれてしまうけど、バルバドス$がいくらか?なんて、
もう綺麗さっぱり忘れている。新しいお金の価値を把握するので精一杯だ。

民家
村の民家。
街の中心地を一歩外れると、途端に
何にもない、ただの田舎町に変わる。
山沿いには、質素で素朴な家が
ポツリポツリと建っているだけ…。
電気や水道も無さそうだ。

ビーチは1st Beachから2nd、3rdと
続いて、第5ビーチまである。
宿は街に近い1st Beachに多く、
我々もそこに滞在している。
水はJ-Bayよりは多少暖かいが、やはり冷たい。

2nd beach
2nd beach
カフェ
この辺りにカフェは1件だけ。

「2nd Beach」と呼ばれる場所には、いくつかのB&Bや質素な宿があって、
ヒッピー系の少数の外国人とアフリカ系白人のローカルが、
その数少ない場所でのんびりしている所だ。
ここのビーチは波乗りも出来る。サーファーの数は極端に少なく、
入っていても1人か2人。混雑とは無縁だ。
3rd beach
3rd beach

「3rd Beach」は野生保護区の
中にあり、入るにはR5必要。
別にこれといって観るものは
無いが、この先にはいくつかの
サーフ・ポイントがある。
早朝行くと、ビーチに
シマウマがいるという。
よーく考えたら、それも凄い。

“ビーチにシマウマ…”。なんだか絵図らとしては想像の外である。
それもアフリカならではの光景なんだろう。

シマウマ
シマウマ。
バッタ?
君、バッタ???

我々が行った時には、さすがにビーチにはいなかったが、
保護区入口の女性に、「シマウマはどこにいるの?」と聞いたら、
「EVERYWERE!」と言われてしまった。

んじゃぁ、シマウマ探しだ!と半信半疑で車で走り出すと、
敷地内コテージの庭に、いきなりシマウマが…。嘘みたい。
庭の草むらには、かって見たこともないカラフルな虫やムカデもいる。
アフリカの自然はダイナミックで、動物や虫達も一味違うみたいだ。

“都市部は治安が悪い”ことで有名な南アフリカも、ここまで田舎に来ると
随分平和な雰囲気だ。だって、ここにあるのは山と川と海だけ…。
ナイト・ライフどころか、街灯もほとんど無い。夜は真っ暗な闇が広がるのみ。

「Port St Johns」
ここでは何にもしない方がいい。
というか何にも出来ない。買う物も無いし、観光する所も無い。

その代わり、大自然のゆったりしたリズムの中で、
素朴にただただのんびりと出来る自由は無限大にある。
今はそのリズムに合わせるように呼吸を整えているといった感じだ。

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